依存

2007年12月5日 読書
ISBN:4344009045 新書 西澤 保彦 幻冬舎 2001/11 ¥1,050

 これは凄い。
 時々、小説を読んでいて「熱」を感じることがある。それはきっと、作者のその物語への入れ込み方だと俺は思っているのだけれど、こいつにはそれがあった。

 引っ張られて、引っ張られて、いつの間にか美しいラストを見終わっていた。長編というよりは連作短編のような形だけれど、個人的な読後感は、綺麗な短編小説を読み終わった後のようなすがすがしいものだった。
 1100枚にもかかわらず。

 西澤保彦さんは、本当に当たりはずれがでかい。
 しかし、このあたりは大きい。まあ、相変わらず、推理力というより、妄想力という感じだったけど。

 今のところ出版されているタックシリーズは、短編集を除けばここまでみたいなので、俺的西澤保彦ウィークも終了。
 方舟は冬の国へ、やファンタズムが微妙な感じで、どうなるかと思ったけれど、いい終わり方だった。
ISBN:4757514441 コミック 大高 忍 スクウェア・エニックス 2005/05/25 ¥530

 すげえ強いの武家生まれ(しかし暴力恐怖症)の男の子と、最強の武家生まれ(本当に強い)の女の子が繰り広げる、格闘ラブコメ。

 いや、絵柄がいかにもな感じで手が出せなかったのだけれど、ブックオフで立ち読んでみて、吹き出してしまった。
 面白い。

 格闘漫画特有の、無駄にあっつい非論理的な空気を持つ女の子と、それを醒めた視点で見つめる男の子っていうのは、なんか、ありそうで無かった味わい。二つの釣り合いが絶妙なおもしろさに繋がっている。

 もし、サザエさんとかちびまる子ちゃんで感動巨編の話を作ったら泣けるんだろうなあ、っていう感じを抱きながら、四巻では不覚にもじんときてしまった。落差ずるい。

 最近、もやしもんやへうげもの、ムーたちなど、変な漫画ばかり読んでいたので、こういう良質なストレート漫画が凄い気持ちいい。
ISBN:4043540019 文庫 西澤 保彦 角川書店 2000/05 ¥600

 箱入りお嬢様の家で、見知らぬ女が血を流して倒れている! 傍らには、大量の髪の毛がストッキングに包まれ置かれていた。
 女の「死体」に困ったお嬢様は、死体の処分を男友達に頼むが。

 と言うお話。
 タックシリーズの第一弾、と銘打ってあったので購入してみる。
 シリーズ物はキャラクタ造形が命だが、それはもうばっちり。良い味が出ている奴らばかりである。こんなに好印象な主人公、久々だ。

 ミステリとしては、どうなんだろう。やいのやいのと、主人公達に喋らせるのだけれど、推理が飛躍しすぎている部分も多いような。筋は通るだろうけど、他にも可能性はあるだろう、と言いたくなる(これは、登場人物達も作中言っているが)。
 それでも、物語全体がもつ構成の妙が良い。後半に雪崩れる展開は、とんでもなく気持ちが良くて、上記の不満など忘れてしまった。

 で、早速第二弾を文庫で購入。
 楽しみだ。
ISBN:4167110105 文庫 東野 圭吾 文藝春秋 2006/02 ¥520

 子供の中学受験合宿に同行した親の一人、並木。彼の愛人が合宿先で妻に殺されてしまう。
 事件を無かったことにしちまおうぜ! って合宿に一緒に来ていたみんながいうから従うけど……
 みたいなお話。

 基本的に流し読む人なので、登場人物がいきなりいっぱいでてくると、誰が誰だったかなぁ、という感じです。最後までそれは続いた(俺がばかだからだ)けど、これは面白かった。ラスト、本格ミステリといわれるものの持つカタルシスを確実に感じた。

 でも、なんか冷静に考えると、無駄な部分というか、もう少し長くして掘り下げるべきなんじゃないかなあ、と思う部分があるようなないような。
 読後の満足感はとてもあるので、そこがとてもマイナスかというと、そうでもないっちゃあ、そうでもないし。

 長距離移動や、通勤通学にはもってこいです。

遠まわりする雛

2007年10月7日 読書
ISBN:4048738119 単行本 米澤 穂信 角川書店 2007/10 ¥1,470

 傑作短編だ!
 手放しで賞賛を!

 古典部、折木奉太郎のモットーは「省エネ」
 やらなくても良いことはやらない。やらなければならない事は手短に。しかし、好奇心の権化である古典部員、千反田えるによって奉太郎の平穏な日々は少し変化する。

「氷菓」「愚者のエンドロール」「クドリャフカの順番」の、合間合間の出来事を短編として収録。前作を読んでいなくても、一応読めるとは思うけれど、通読した方が、何倍も楽しめるし、読む価値はある作品群。

 しかし、こんなレベルの高い短編小説を読んだのはいつぶりだろう。
 吹き出して笑い、文章のテンポに舌を巻き、複雑に考え、ミステリに感嘆する、まさに「文学」の楽しさがぎっしり詰まっているエンターテイメントだ。
 ライトノベル読者も一般読者も取り込める間口の広い語り口も絶妙。というか、そこが米澤さんの良いところである。
「キャラクタ」と「人間」が書かれている、というか、凄いなあ。まあ、リアリティとかでは無いけど。巧い、と思う。

 個人的には「手作りチョコレート事件」と「影法師は独白する」のなんとももやもやとする感じが好き。
「心当たりのあるものは」は日常の謎ミステリの傑作。

 ちょっとばかり、米澤作品に思い入れが深いので偏った評価だとは思うけれど、通読してきた読者なら買いな作品。ハードカバーのわりには安いし。

 しかし、こうしてみると、本当に「さよなら妖精」は古典部でやるつもりだったんだなあ。途中、橋の描写があるけれど、やっぱりあの橋かな。
ISBN:4048737902 単行本 小笠原 慧 角川書店 2007/09 ¥1,890

 これはまだ、統合失調症が精神分裂病と呼ばれていた時代の、そう遠くない昔の、恋愛小説。

 現役の精神科医作家がえがく! と帯にあって驚いた。精神科医だったんだ。デビュー作からずっと追いかけていたけれど、見落としていた。
 これで、著作が売れなくて生活出来なくなるんじゃないかな、という心配とはおさらばだ。

 台詞が多めだけれど、自然な地の文の筆致はやっぱり好きだ。
 すんなり物語に入り込めて、恋愛小説特有のやきもき感も手伝い、次へ次へ! となってしまう。
 精神病、っていう危ういテーマを扱っているけれど、それを強く表に出していないところも、すんなり入っていけた理由かも知れない。まあ、それが良いことなのか悪いことなのかわからんけど、もうちょっと統合失調症って言う病気についてを掘り下げて欲しかったなあ。

 佐伯という医者が口にする「一年に一度くらいは起こる辛いことを数十回繰り返していくのが、人間の生ってもんだ」みたいな台詞が、やけに印象に残っている。
 帯の「ハッピーエンドなのに、悲しいのはなぜ?」という言葉がじわじわラストに近づくにつれて体にしみていく。
 条件反射的に涙を流させて「良いお話」にするんでは無い、自然と涙が流れる良いお話でした。

 セックスボランティアでもふれられていた障害者との恋愛っていうのは、まだまだタブーであり続けるのだろうけど、ほんの、本当にほんの僅かでも良いから、考える人が多くあって欲しいなあ。
 俺には重すぎて無理だけど。これは逃げじゃないと思いたい。

 おすすめ、だけど、恋愛小説が苦手な人は避けるが吉。
ISBN:4093877297 単行本 平山 瑞穂 小学館 2007/07/31 ¥1,470

 会社をクビに。恋人にもふられ。無職の男が、知古の縁で頼まれた「株式会社ハピネス計画」の仕事。
 はてはて、どうなりますか。

 そんなあらすじで、てっきり「不幸な人を幸せにしてあげようと奔走する内に、自分の幸せを見つけ……」みたいな感じでストーリーが展開されるかと思ったら、全然違った。

 良い意味で裏切られるのは、本田孝好さんの「正義のミカタ」と同じような感じ。だから、嫌な気分ではないし、むしろ平山さんのデビュー作「ラスマンチャス通信」に雰囲気が近くて大好きだ。

 現実と妄想が入り交じる、というよりは、現実が妄想を引きずるような描写で続き、展開する物語は、飽きず、良い。
 小さなこだわりがかいま見えてにやりとする筆致も素敵。

 ラストの落とし方が少し釈然としないけれど、全体的に面白かった。
 満足。
ISBN:4150307873 文庫 野尻 抱介 早川書房 2005/03/24 ¥672

 ハードSF、ファーストコンタクト。
 この二つのキーワードで、あらすじもいらないくらい、十分なのです。
 少しでも興味を持てれば、絶対に面白い。

 ファーストコンタクトものは、わくわくして面白い。それが理論的に語られるなら尚更だ。
 太陽の周りに謎のリングが建設され、日照時間の問題が出てくる序盤。こちらの問いかけに対してまるで無頓着な異星人の「知性」を巡る中盤。そして怒濤の終盤。飽きない。

 果たして本当に居たら、どんな具合なのか。読後、物語から抜け出せずそんな事を真剣に考えてしまう朝なのです。
 脳、あるのかなあ。

ボトルネック

2007年9月3日 読書
ISBN:4103014717 単行本 米澤 穂信 新潮社 2006/08/30 ¥1,470

 岬で好きな女の子を亡くした男の子が、弔いにその岬へ出向く。
 そこで風にあおられ、自分も奈落へ。
 気づくとそこは「自分が生まれなかった世界」だった。

「さよなら妖精」より、洗練された読後感の悪さが、素晴らしい。

 凄い褒め言葉だなあ、と自分で感心してしまう。いやでも、本当に素晴らしい。三回も読み返してしまった。

 暗く美しいというか、帯の文句通り、青春は「痛い」のだ。自分が生まれなかった世界で(ごにょごにょ)だったら(ごにょごにょ)である。
 それが、ライトノベル調の語り口で語られる、そんなアヴァンギャルドな感覚がたまらない。
 ミステリと言うよりは、純文学の亜種といった具合に思えた。だって、謎よりも、人間を考察している。

 オススメ。
ISBN:4104722022 単行本 平山 瑞穂 新潮社 2006/02/20 ¥1,470

 時の狭間に、時々はまって消えちゃう女の子を好きになった男の子のお話。

 10件くらい本屋を回ってようやく発見に至る。
 そのかいはあったくらい面白い。前作のラスマンチャス通信とは別の意味で心地が良い作品だ。まさにエンターテイメントの神髄「面白ければいいジャン!」的な感じが良い。

 喪失を扱った有名な著書二冊「世界の中心で愛を叫ぶ」と「今、会いに行きます」にも見劣りしない出来だと思うのです。今、会いに行きます同様、エピローグが少し蛇足的な感じはしたけど。
 まあ、世界の中心で愛を叫ぶはエンターテイメントとしては計れないのでなんともだけど。
 じゃあ、どれが小説として一番好きか? と問われれば、俺はこれを推す。

 カヴァーデザインも作中の「一瞬」の喪失感を表すみたいで素敵。
 と、こんだけべた褒めしてはみたものの、五点満点で考えれば3,5くらいだとは思うのです。
 無難なのです。でも、平山瑞穂という作家さんがこういう話を書ける、っていう意味では五点満点でもあると思うのです。
 凄い人だ、この人は。

 もっと平山さんの本を読んでみたいから、お勧め。
 普通に水準以上のおもしろさはあるとは思うし。
ISBN:4488451020 文庫 米澤 穂信 東京創元社 2006/04/11 ¥600

 一癖も二癖もあるがゆえ、人から疎まれる。だから目立たず、騒がず、小市民を目指す小鳩くんと小佐内さんは、互いを言い訳に利用する互恵関係にあります。

 前作、春期限定いちごタルト事件の続編。
 毎日じっくり電車の中で読もうと思っていたら、一日で読了してしまった。もちろんボリューム不足と言うわけではなく、止まらなかった。
 何故だろう?

 提示されるミステリ的な謎も、その解決も、確かに鮮やかではあるけれど、それほど衝撃的でも魅力的でも無い。
 キャラクタの魅力か、と問われると、まあ一理はあるけれど基本的に独りを好む小鳩の一人称で進むため、いわゆる「キャラクタがたっている」というほど他のキャラクタを掘り下げても居ない(実際、登場人物は極端に少ない)。
 ただ、それぞれの一言一言によって、くっきり輪郭が浮かび上がる筆力は見事だけれど。

 じゃあ何故。
 そういった、絶妙な微妙さの上に成り立つ「全体」が儚くて気持ちいいのだ。
 丁寧な仕事、プロの仕事をきちんとしていると思う。
 とくに、前作もそうだったのだけれど、収束へ向かうにつれての盛り上がりが良い。古典部やその他のシリーズには無い、アンニュイな盛り上がり方だと思う。

 意外な収束を見せて、次作への期待も高まりますとも。
 でも、地味目なので、偏屈な楽しみ方が出来る人にはお勧め。
ISBN:4087804240 単行本 松原 真琴 集英社 2006/03 ¥1,365

 定金、乙一、松原。
 J-bookトリオの珍道中。

 これがまた面白い。伊集院光ラジオリスナーならにやりとする場面が何度もあるし、基本的にリスナー層の三人(つまり駄目人間)のやりとりが素敵。
 まあ、1300円の価値があるかと問われると少し疑問なのだけど、個人的には通勤中に長い間時間がつぶせたので満足。

 乙一書き下ろしの毒殺天使しゃれこうべちゃん(しゃれこうべちゃんは抜けたけど)もなかなか素敵である。
 撲殺天使ドクロちゃんを読みたくなったので、たぶん宣伝効果があった。怒らないだろう。

 しかし、乙一さんがイケメン作家で通っていたとは驚きだった。
 なんてやろうだ。

追記

 撲殺天使ドクロちゃんを立ち読んでみた。
 すげえ。面白いけど、これ小説じゃないだろう。
 アドヴェンチャーゲームのテキストの羅列だった。電撃文庫ってあんなだったのか。猫の地球儀やキノの旅のイメージが強かった。
ISBN:4480687319 新書 天童 荒太 筑摩書房 2006/02/07 ¥798

 心に傷を受けた場所から、血が流れている。
 少年少女達は、その場所に包帯を巻いていく。

 多分、もう少し若ければ楽しめたと思う。
 んで、某有名レビューサイトで的確なレビューがされているのを見てしまったので、何も言う事がないのです。
 とりあえず、或る程度お勧めです。ラブアンドピース!
ISBN:4061820338 新書 京極 夏彦 講談社 1998/09 ¥1,334

 読了!
 模倣犯以来の大長編。
 支度の方が短編集の体をとっていたので、読みやすかったと言えば読みやすかったけれど。

 前作同様、このシリーズは京極夏彦に翻弄されるのが面白いのであって、本格ミステリとして読むと「んなのわからねえよ!」ってなっちゃうのだけれど、今回はそれがとびきり。
 無茶だ。
 催眠術や洗脳で記憶を改竄するってなってくると、もうなんでもアリになっちゃう気がするし。いかがなものか。

 キャラクタの魅力以外、今回はぐっとくるものが無かった(或る意味ねらいかも知れないけど)。これだけ長いと、テーマを提示しているのに、それを読み解くのがしんどくなるし。
 とはいえ、やっぱり面白いのだよなあ。

 おいしいコーヒーの入れ方に続き、シリーズマジックにかかってしまった。
ISBN:4062735350 文庫 京極 夏彦 講談社 2002/09 ¥1,360

 ふはー。
 凄い凄い。
 偶然とも思える策略が、放射状にのび集積(と言うより縦横に張り巡ら)されて事件となり、その中央に居る人物をぼやかす。
 さらに、登場人物全てがパーツであるような構成。
 各々の物語だけでも一つ小説が成り立つのに……
 長大にもなりますわ。

 第一に、キャラクタ小説として、一人一人がたっている事が凄い。
 第二に、ミステリとしてここまで大がかりな事をやってしまった事が凄い。
 第三に、それが成功している事が、とんでもなく凄い。
 普通なら、安易なオチで終わらせられるような部分も、あえてそれを避けるようにおとしている。物語はどんどんおかしな方向へ複雑化して行ってるのに、見事にまとまってしまう。
 まあ、少し登場人物の頭が良すぎないか、とか思っちゃうけれど、それはそれ。キャラクタがたっているからいいのです。

 これで直木賞取れなかったんだから、よくわからない。
 まあ、シリーズ通して(と言うか初期の作品)の登場人物まで持ち出す周到さなのだから、仕方ないか。

 骨がおれますが、第一作から読んでいくと吉です。
 おすすめ。

 今川が好き。

-追記-

 ちなみに京極さんは本のデザインから手がけているので、次のページに文章が続かないような、そんな丁寧な段落になってるのです。
 1000ページ近くある物語も、比較的そのおかげなのか楽に読めます。

獣の夢

2006年1月27日 読書
ISBN:4043464045 文庫 中井 拓志 角川書店 2006/01 ¥540

 相変わらず、角川ホラー文庫の装丁はいまいち。

 で、久々の中井拓志さんの新作。
 9年前、事故で死亡した同級生を、子供たちがばらばらにすると言う事件が起きました。同様の事が9年後、おこっちゃうのです。

 と言うような話。
 アリスが出た時のインタビューで「次は夢のお話です」というような事を言っていたけれど、まるで違うじゃないか。これは「言葉」のお話。
 情報によって犯罪が流布される。犯罪の伝播性。シルバー事件みたいで、そう言うのは好きなのだけれど、いかんせんスケールが小さい上に、文章もテンポが悪い。無理矢理な感じがした。

 テーマとしてはアリスよりも分かりやすくて好きなんだけどなあ。
 でも、また何年後かに新刊が出たら喜々として買ってしまうのだろう魅力を持つ作家さん。

夢のカルテ

2006年1月17日 読書
ISBN:4048736493 単行本 阪上 仁志 角川書店 2005/11/30 ¥1,365

 なんか、装丁がおかしい。本が歪むんですけど。
 何件か本屋を巡ったけれど、全部そんな感じだったので、乱丁? とも思ったけど、どうなんだろ。
 ソフトカバーみたいなハードカバー。

 内容は、連作短編が重なって出来る中編という感じ。
 ボリューム的には長編と言ってもおかしくないのだけれど、読後感が柔らかくて、中編くらいのボリュームに感じるのです。

 夢の中に入れる女性がカウンセリングルームを開業していて、そこに不眠症で訪れた刑事。二人の恋愛模様を描きつつ、刑事事件に関わる出来事を、女性がその特異な能力をよういて解き明かす。

 あえてカテゴライズするなら、ミステリですね。
 しかし、しっかり腰を据えているテーマは恋愛なので、どちらに振り分けるかちょっと迷ってしまう。
 そのどちらの面から見ても質が高くて面白いのですが。

 エンターテイメントの作り方を熟知した著者ならではの運び方は、もう美しすぎます。

金春屋ゴメス

2006年1月13日 読書
ISBN:4103003111 単行本 西條 奈加 新潮社 2005/11 ¥1,470

 日本ファンタジー大賞が熱い。
 前回の「ラス・マンチャス通信」もそうだし、その前の「太陽の塔」もそうだし、激熱。
 今回受賞の「金春屋ゴメス」も、もはや新人の筆力じゃない。物語の運び方がどっしりしてる。キャラクタの造形だとかも、型にはまったように巧い。それでいて、あまりはまりすぎた感じがしないから良いね。

 日本の領土内で宣言された独立国家「江戸」へ渡った青年が、鬼赤痢と呼ばれる病気の原因を調査する。

 と言うのが、とんでもなく大まかな流れ。
 ファンタジーってのは剣と魔法の世界だけじゃないんだよ、と分かりやすく説明できる本作。一歩間違えればSFに近いっちゃ近いけど。

 おそらくシリーズ化するのだろうけど、楽しみだなあ。
 ミステリフロンティアあたり、拾わないかな、とも思っている。
ISBN:4087747875 単行本 古川 日出男 集英社 2005/11 ¥1,680

 古川日出男さんの文章は、エフェクタで言うとODだ。
 文章がドライヴして歪んでいる。オーヴァーなくらいに、ドライヴしている。
 だからこそ、ロックンロールという題材をとりあげて物語を紡ぐのも必然なのだろう。
 ちなみに、舞城さんくらいになると、DS。他にドライヴしている作家さんは津原泰水さんとか、最近で言うと平山瑞穂さん。でも、この二人はどっちかっていうとSD。
 古川さんはODなのだ。ヴィンテージな。

 とにかく良い。
 古川日出男好きにはもうたまらない。
 で、苦手な人にはもう、小説ですらない。

MOMENT

2005年10月17日 読書
ISBN:4087478599 文庫 本多 孝好 集英社 2005/09 ¥560

 入院している末期患者の間で、ひそかな噂が流れ始める。
「死を目前にした患者の願いを、なんでも一つだけ叶えてくれるらしい。その男は、どうやら掃除夫の格好をしているらしい」
 で、その掃除夫が、色々な末期患者の願いを叶えたりする話。

 お話自体も面白いし、謎の解決も魅力もなかなか。
 だけど物足りないのは、最後がどうも「終わった!」という感じがしないせいだと思う。
 どの短編にも静と動があるんだけど、それが繰り返してるだけで、全体的に平坦に見えた。

 この人の書く主人公が一辺倒であるのもちょっと気になるのです。
 嫌いではないだけに、他の部分を視てみたい、っていう気分。

 なんだかんだで、面白いのでおすすめではあり、けり。

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