ISBN:4104722014 単行本 平山 瑞穂 新潮社 2004/12/21 ¥1,470

 僕は常に正しく行動している。姉を犯そうとした「アレ」は始末されるべきだし、頭の足りない無礼なヤンキーが不幸になるのは当然だ。でも、なぜか人は僕を遠巻きにする。薄気味悪い虫を見るように。
 日本ファンタジーノベル大賞 大賞受賞作。

 凄まじい。帯にはカフカ+マルケス=と言う文句がついていたけれど、個人的には薄い牧野修+人情のない重松清=である。
 この絶望感というか、疾走――または失速――感は久しぶり。

 グロテスクで、美しさはないプロットが、これでもかというほど流れるように進んで飽きない。
 ファンタジーノベル大賞と言う事で、章ごとにいくらか現実離れした現実が差し込まれてくる。それもどこか漠然としていて、果たして何かの隠喩なのかとすら思えてしまう。
 深そうな、浅そうな、そんな水たまりを見るみたいな。
 見てるこっちは小学生の脳みそみたいに、足を突っ込まざるをえないのだけれど。

 次作がどういう方向に行くのかで、決まる。
 同じ方向だったら、正直言ってつまらない。
 前回の受賞者、森見さんがそうだったように。

 次は、泣かせて欲しい。

火車

2005年1月20日 読書
ISBN:4101369186 文庫 宮部 みゆき 新潮社 1998/01 ¥900

 皆様いかがお過ごしでしょう。
 やはり世界にはまだまだ見た事のない暗部が多くあると実感した昨今。

 たとえばこの本。
 自己破産、その中でもローン破産やカード破産に焦点を当てた作品。
「破産」「借金」という二文字に追われた、二人の女性の人生は。

 自己破産やカード破産をする人間のイメージは? だらしなくて自己管理が出来ていない人間。たぶん、この作品が出た当時はそれが「当然のイメージ」だった。
 たぶん現在でもそれは続いていると思う。

 もちろんそう言う一面もあるのだけれど、あくまで「一面」であることが、結構わからない。
 なんでもそうで、ニュースで伝えられた一面だけをその全体像としてみんな語りたがる。物事ってそんな単純な事か。
 不登校、引きこもり、自己破産、中絶、自殺、殺人。
 その負である「事象」自体を悪だと排他するのは簡単。けれど、そこに存在する「人間」まで決して見ようとしない。
 それも良いとは思う。だいたい、そんな抱えきれるわけがないし。ただし、軽はずみな言葉は無意味なとげを持つ。
 見ようともしないのに、何を論じる?

 個人が個人を保って生活する事なんて、よほど達観した人間じゃないと無理だ。その「場」や周囲に左右されて移ろう。
 じゃあ誰が断罪(司法に限らず)できるのか、って考えていくと結局は民衆なのだから質が悪いね。
 悪循環だけど、他にどんな方法があるのかってわからない。でも、この本がみんなに届けば、少しは良いんじゃないか、と思う。

 そんな傑作。
 なぜこれが直木賞を取らなかったのかと言う謎が、蟠る。
ISBN:4093860726 単行本 片山 恭一 小学館 2001/03 ¥1,470

 与えられる事の「楽」さと、与える事の「楽」しさ。
「し」が入るくせに。

 あらすじは、紹介するまでもないほど有名な本。
 そして、若い人の本。

 面白かったけれど、批判される理由もわかる。しかし、その評価が正しいのかどうかなんて、誰が決めるか。時代は流れている。
 個人的に、逃避行中、いつの間にか死を肯定して話していく電車の中でのシーンはなかなかじんとしてしまった。
 嘘です。「じん」じゃなくて、泣きました。

 妙にお洒落を気取った文章の書き方は、好き嫌いがはっきりとわかれそう。
 フランス映画を芸術的に見てますよ、ワイングラスゆらゆら的な。
 フランス映画はエロいから良いのだ。エロいから。エロエロエロー。

 話がずれた。

 この本を読んでいる最中、傍らに北村薫さんの「リセット」が置いてあるのを見つけて、ふと思い出した。
 その中に宮部みゆきさんと著者の北村薫さんの対談が載っていた。対談中にこんな対話があった。

-引用-

宮部・
 とっても好きなシーンがあるんです(中略)事故に遭うところ。真澄さんが事故の直前「もしもの事があったらわたし、あなたのお母さんに会わせる顔がない」っていうところです。

北村・
 それは、ぜひ使いたいセリフでした(後略)

宮部・
 (前略)今、語られている恋や愛のなかには、この感覚は少ないと思うんですよ。あなたに何かあったら、あなたのご両親に申し訳ない、という感覚は、薄れていると思うんですよ。人に恋したり、愛したりする感情が、相手を思いやる事なら、その中にはかならず親の事もあるはずなのだけれど――。

-引用終わり-

 つまりこれは、現代のお話。
 価値観が変わった現代のお話。それが受け入れられている。
 そう実感。
ISBN:4091515126 コミック 山本 英夫 小学館 1998/06 ¥510

「世界の中心で愛を叫ぶ」と同時購入し、こちらを先に読み始め、いつのまにか全巻集めるという暴挙に出る。

 変態。
 その一言以外、特に言葉は出ないのだけれど、面白いのだから私も変態である。

 説明すればするほど変なキーワードでひっかかってきそうな人が多くなりそうなので省く。
 しかし、読んでみてくれとも決して勧められない。
 どうすればいいのかと言うと、つまりどうしようもない。

 ヨコハマ買い出し紀行の横に並べようと思う。
ISBN:4894532476 単行本 渡辺 一史 北海道新聞社 2003/03 ¥1,890

 徐々に筋肉が萎縮していく難病、筋ジストロフィー。
 その難病を持つ鹿野氏とボランティア達を追ったドキュメンタリー。

 障害者にとって、当然の権利とはどこまでが許されるのだろう。
 この本の中で鹿野氏は何度も「わがまま」と表現されている。アレやって、コレやって、タイトルにもなった「こんな夜更けにバナナかよ」事件からも、その「わがまま」ぶりが見えている。
 とはいえ、本当にそれが「わがまま」なのか。寝返りも自分でうてない人間が「あれをしてほしい」とボランティアに要求する事が「わがままなのか」どうか。
 意外に考える機会の少ない投げかけを貰った気がする。

 健常者は「障害者なんだから」と押しつけて、障害者は「障害者だから」と卑屈になる。
 これが正しくない、と言いながらも、読む前の私は「遠慮くらいしろよなあ」とか思っていた時もあった。
 何だろう、結局狭い視野でしかなかったのだな。
 24時間他人の手を借りなければ行けない状態で、どう振る舞えるか。ちょっと想像出来なかった。この本を読み終わったあとでも、まるでフィクションみたいに現実感が無い。
 それを生き抜くしんどさって、どんなのだろう。
 考える事は出来る。良い事に、この本という教科書もあるのだから。

 もちろん、ボランティアも人間であるわけだけれど。
 でも、障害があるから、他人の手を借りなければいけない人間だから、何かを我慢し続けなければいけない、と言うのもそれはそれで「正しい」のかどうか。
(もちろん鹿野氏は「障害者だから」という時代遅れの言葉は使わない)
 この本でも何度か投げかけられる疑問。
 ただ障害者を「可哀想」としか思っていなかった人間に、分かりやすく考えさせてくれる。

 しかし、ボランティアの人達だって鹿野氏に負けず一癖も二癖もある。
 障害者じゃない鹿野さんは考えられない、と言うセリフがあるのだけれど、多分ボランティアに訪れた人間もそうなのだろうな、と思った。
 何かしら悩んでいるけれど、その悩みが無かったら自分じゃない、と自信のもてるだろう人達ばかりが集まっている気がする。
 この本の裏の主役は、彼ら、彼女らでもあるわけだ。
「不幸な人間はもう一人不幸な人間を見つけて、幸せになる」という言葉の印象深い事印象深い事。
 不幸やら苦しみっていうのも、そんなに悪いもんじゃない。卑屈にさえならなければ。

 主観で決めつけて、冗長な文章がずっと続く、と言うイメージがノンフィクションにはあったのだけれど、ここまで主観と客観で悩み、問題を真摯に扱い、魅力ある文章で構成されているとは思わなかった。
 もっと多くの人に読まれるべき本。
 オススメ。

あふれた愛

2005年1月2日 読書
ISBN:408774373X 単行本 天童 荒太 集英社 2000/11 ¥1,470

 年始から何を読んでいるのだ、という感じだけれど、大変面白いので再読。

 永遠の仔執筆当時の取材から喚起された様々な物語。
 なので、痛々しい物が結構多い。
 精神科の社会復帰病棟で知り合った男女の同棲。妄想の恋人と逢い引きを続ける少女。などなど。
 どれにも、一応の終わりがあり、それが「救われた」終わりなのかはまるでわからないけれど、読後感は意外にさっぱりとしている。
 私は「とりあえず、愛」と「やすらぎの香り」が好き。どちらも優しい。

 少し前まではフィクションとしか読めなかった内容が、ちょっと資料を調べたり、体験談を調べたりした今読み返すと、なるほどこれは別に「完全なフィクション」であるわけじゃないのだ、と気づいた。
 親を喜ばせるため完璧を目指してどこかで挫折を経験し、過食嘔吐を繰り返す、とか。育児ノイローゼで子殺しの妄想に襲われてしまうとか。
 読み手で、物語は完全に鮮やかさを変えるわけだ。

 だからこそ、少々無理に綺麗な終わり方をしているかな、と言うきらいが無くもないのだけれど、それはそれ。十分考えられた着地点であるとも思う。
 つまり、この本の何が良いかというと、そう言う人たちに向けられた真摯な姿勢が良いのであります。
 あと、タイトルも良いのであります。「あふれる」じゃなくて「あふれた」なあたりが。ね? ね。

百器徒然袋―雨

2004年12月24日 読書
ISBN:4061821008 単行本(ソフトカバー) 京極 夏彦 講談社 1999/11 ¥1,208

 他人の過去の記憶が「見えてしまう」榎木津の活躍を主に据えた短編集。
 今日も下僕を引き連れて快刀乱麻の探偵劇。

 この人は、短編ですら長い。
 しかし、やはり口当たりは長編よりどれだけか易しい。
 まだ読んでいない長編のお話も交錯して、なかなか流れを掴みにくかったけれど、一編でも京極堂シリーズを読んだ事がある人なら雰囲気は掴めると思う。
 榎木津の壊れ方が激しい気もするけれど。

 個人的には二番目のお話「瓶長」が好み。どの短編にも共通するけれど、するすると様々な事件が収束していく様は見事。きちんと含蓄を含ませるのもにやりとする。
 瓶長のラストシーンは、水谷豊の昔やっていた刑事ドラマを思い出した(ホンジョウさんという役名だったドラマ。なんだっけな)。
 つまり、それぐらい軽いのりで読めるから良い。

 おそらくは、京極堂シリーズを全て読み終わってから挑んだ方がより楽しめるのだろうけれど、一つがあの長さで辟易、という人はこちらに気移りしても良いかも知れない。
 しかし、いきなりこの本を読むのはオススメしない。
 最終話にして関口が出てきたところで、なんだかほっとするあの感じが味わえないから。

 にしても、背表紙の「探偵小説」が良いね。
 現している。
ISBN:4488451012 文庫 米澤 穂信 東京創元社 2004/12/18 ¥609

 小市民を目指す少年と少女。
 探偵なんてやって目立ちたくない彼らの元に、次々と降りかかる些細な事件の数々。

 私がファンである事を除いても、質の高い日常の謎ミステリであると思うのです。
 ミステリ部分はおまけに過ぎなくて、結局は登場人物たちの魅力というのがとても良いのだけれど、決してどちらの要素が欠けていてもいけない妙なバランスの上になりたっているわけです。
 ミステリ部分が面白くないわけではなく、やはり一発のパンチ力が弱いと言うか(これは今までの作品に共通するけど)。
 日常の謎に、悶絶するほどのカタルシスを求めるのが間違っているのかな。
 それでも、最後の健吾と小鳩の応酬は疾走感があってたまらなかった。ギャグではなく、気の利いた台詞でくすりと笑うあの感覚、大好きだ。
 本当に米澤氏はこういう場面が巧い。

 ライトノベル寄りとして紹介される事が多いけれど、それで敬遠したら勿体ないほど、硬質で皮肉に満ちた書き方をする人だと言う印象が、今までよりさらに強く残った。
「氷菓」や「愚者のエンドロール」や「さよなら妖精」などよりも、そう言うところで一本通った非常のバランスの良い作品。
 オススメ。

 しかし、解説は最低。
ISBN:4062638878 文庫 京極 夏彦 講談社 1998/09 ¥840

 再読。

 ある産婦人科医院の娘婿が密室から失踪する。捜索の依頼を変な形で受ける事になってしまった関口巽。
 彼と依頼人との関係は。そして、一〇ヶ月を過ぎても生まれてこない赤子の秘密は。

 もし今、この人が文芸界にデビューしていても、相当な衝撃だろうな、と思うくらいの、新人離れした巧妙なお話。
 3作目(狂骨の夢)まで読んだけれど、一番すっきりとまとまっていて読みやすい。宗教に関する話題も一番少ないのでありがたい。

 反則ぎりぎりのトリックに、反則的な探偵に、下手すればぽいと投げ捨てられてしまうようなお話だけれど、それに整合性を持たせる、つまり作中の理屈馬鹿「京極堂」のような物語の展開が、京極夏彦さんの良いところだ。

 頭が良く、博識である、ととらえるのは少し安っぽい。
 そんな人間はわんさか居るだろうと思う。ただ京極氏の場合、世の中(というか、世界)のとらえ方が面白い。
 それを的確に文章にするのだから、面白くないはずが無いのだ。
 とはいえ、理解できない人には絶対に理解されないであろう論理でもあるな、と思う。
 個人的に、夢の話のくだりはとても面白かった。

 完全版であるハードカバーの「姑獲鳥の夏」も読んでみたくなった今日この頃。
 しかし、宗教のお話部分が増加されただけのような気もするな。
ISBN:448801707X 単行本 石持 浅海 東京創元社 2004/11/30 ¥1,680

 生まれたとき人はみんな女性であり、優秀な者だけが男性化する不思議な世界観。
 そこで、一人の「優秀」な女性が殺される。

 不思議な世界観、とは言え舞台は日本だし、すんでいる人間はこの世界と変わらぬ日常で悩んでいたり、煩っていたりするし、違和感が無い。
 まずそこが凄い。3、4行目でもう設定の違和感は払拭される。

 しかし、謎自体はその「男性化」を主に据えて展開されていきます。
 これがまたしびれる。上記の通り、違和感が払拭された世界観があって、その違和感の無い「世界の法則」の通り謎は解決を見せていくのですよ。
 嗚呼、この感覚久しぶり。どっぷりその世界に浸る、というこの快感。物語が終わり、世界が閉じるのを嫌う感覚。

 読みやすいが軽くない文体で、しかし軽妙に進む物語。
 だからこそか、物足りない部分はありますが、面白かった。
 ますます、ほかの著作を手に取ってみたくなってきた。

 しかしこの人は、もっと長大な作品を書かせたら化けるんじゃないだろうか、と思う。
 短編も、このくらいの長編も下手というわけでは無いのだけれど、やっぱり少し「物足りない」のが「勿体ない」のです。
(訂正)
ISBN:4488023819 単行本 東京創元社 2004/11/25 ¥1,260

 米さんこと米澤穂信さんの短編が収録されているとのことで購入。ほかのメンバーも豪華です。朱川湊人さんのお話も楽しみ。
 米澤氏のお話は、なんとも形容しがたい不可思議な世界観。盲信するわけじゃないけれど、個人的には好き。ブラックユーモアだね。
 短編がこんなに巧い人だとは思わなかった。

 にしても、ミステリフロンティアすごいですね。
 伊坂幸太郎さんの「アヒルと鴨のコインロッカー」がこのミステリーがすごい2位ですか。(一位じゃなかった)。
 米澤氏の「さよなら妖精」も20位に。
 まあ、読者の絶対数で決まってしまうのだろうから、なんともだけれど。大体、あの本は上からの言葉過ぎて読んでいて苛立つだけだ。

 して、この本の編集後記にもありましたが、まるでネームバリューの無い新人の単行本シリーズなんて、売れるはずが無いんですよね。
 それをあえてやってのけた東京創元社はすごい。しょっぱなの「アヒルと鴨」がいろいろと賞を取って、運も良かった。神様の後押しです。
 背表紙が空の写真を使っている、というのも驚きです。どうりで温かみのある色だと思った。

 これからもどんどん新鋭を送り出してほしい。
 けど、質より量になったら終わりだね。

-追記-

 石持さんと森谷さんの短編を読了。
 どちらもすばらしい。

 石持さんのお話は、たったあれだけの「場」を展開させて、よくぞミステリに仕立て上げた! と拍手を送りたくなってしまう。
 ほかの著作もノベルスだし買ってみようかな、と思ってしまった。

 森谷さんのお話は、短編の中で無茶苦茶な謎をこうもいっぱい散りばめて、よく収束させられるものだなあ、とため息が出る美しさ。登場人物の台詞もいいです。本が好きだからこそ、書けるお話。

 なにか、これだけのボリュームで1200円は破格なのではないか、と思えてくる。回し者ではないけれど、フレッシュなミステリ作家さんを見つけ出したい人にはお勧めできます。
 突出した、という感じは無いけれど。
ISBN:4063289710 コミック 佐藤 秀峰 講談社 2004/07/23 ¥560

 B氏に借りて読んでみました。ちょうどそういう話をしていたので。

 精神病に関する解釈に頷きつつ読む。「病気なんだ」という言葉が、全て。
 差別に関しても、自分の考えがそれほど間違いじゃない(と言うより、特殊でない)という事が分かって、ちょっと安心。

 違和を違和として受け入れ、それとどう付き合うのかが、つまり問題なのですよ。出来ない事があるのは当たり前、出来る事は助け合えばいい。その相互関係を、どちらも気を遣いながら行くのがきっと善いのだ。
 これって別に、障害に関係なくそんな感じだとも思うのだけれど、どうだろう。
 まあ、気を遣わない関係というのも、良いけれど。むしろ、羨ましい。

 昔、養護学級の子と同じ塾に通っていた事がありました。個人塾で、勉強というより、何か頭の運動、という感じの所でしたけど。
 あいつは面白かった。すぐ癇癪を起こすし、騒ぐしで大変だったけれど、ゲームの話で気があったし、塾の庭にいた鶏の世話が大好きで、ずっと笑ってた。

 でも、だからって養護学級と普通学級と分けているのが「差別」であるとは決して思わない。
 子供がそれほどすんなりそういう事を受け入れられるとは思えない。
 ただ、今みたいに「隔離」っぽくなるとちょっと違うとも思う。

「理解」するのは個人の問題。
 ただ、そのきっかけすら無いのは、世の中の問題。
 そう言う意味で、こういう本が売れるのはとても嬉しい。ぜひ、ドラマ化して欲しいな。

妖怪新紀行

2004年11月30日 読書
ISBN:4043525052 文庫 瀬川 ことび 角川書店 2004/03 ¥580

 妖怪ウォッチングを楽しむ、男二人のちょっぴり切ない妖怪ストーリー。

 再読しました。
 とんでもなく面白いのだけれど、それを言葉で説明すればするほど、うさんくさくなる本書。
 ふとした切っ掛けで見えてしまえば、妖怪は至る所にいるんだ、と言う妖怪マニア鳥飼の言葉を、最後にはちょっと信じてもいい気がしてきます。

 それで、妖怪の存在にふとした切っ掛けで気づいてしまった鳥飼の友人は、彼にまきこまれるように、妖怪の世界へはまっていきます。
 就職難で働き口が無く、気力もない彼はしかし、妖怪と、鳥飼と関わる事で少しずつ変わっていくのです。
 変な話、妖怪ストーリーなのに人間の再生までカバーしているから、面白い。
 しかも妖怪とのラブストーリーまであるのだから訳が分からない。
 ほら、うさんくさくなってきた。

 純粋な人間というのは、小説の中では輝けますね。
 鳥飼という男が、私はとんでもなく好きです。それはもう、歴代漫画を含め好きなキャラクタをランキングするならば、堂々三位くらいですね。
「妖怪はロマンだ」とてらいもなく言ってのける彼。
 妖怪を見つけると夢中になって目先の事がまるで見えなくなる彼。
 時代錯誤の風貌で、長髪黒縁眼鏡。そんな描写も気になりません。

 そんなこんなで、角川ホラー文庫の中でも異質な瀬川氏の著書を、お楽しみください。

平面いぬ。

2004年11月26日 読書
ISBN:4087475905 文庫 乙一 集英社 2003/06 ¥620

 最近、津原泰水さんや古川日出男さんなど「文章で魅せる」作家さんの本を読んできたため、乙一かあ、とずっとほっぽっておいたこの本。

 いや、原因はもう一つありそう。
 これを読む事で乙一の著書全てを読む事になってしまう、つまりもう読めなくなる、というのが嫌だったのかも知れない。
 ファイナルファンタジー4、5と同じ理由でラストダンジョンにてプレイを中断した人間だ。
 しかし、読む。他に読む物が無かった、といえば聞こえは悪いけれど。

 単行本では表題作だった石ノ目は、いかにも乙一らしいお話。
 現実とファンタジーとホラーと童話が混濁したような雰囲気。
 しかし、あまり情景が立ち上がってこず、いまいちであった。

「はじめ」は、ジャンプで漫画化もされたお話であると記憶している。
 男の子二人が作り出した妄想の女の子「はじめ」が、いつしか二人の前に実態として現れる(もちろん二人にしか見えない)。
 このお話を読んで、彼が伊集院光のラジオリスナーで有る事を思い出した。
 伊集院氏がよく言う脳内彼女が、果たして実体化したら、というのを遠回しに書いたような切ないお話。
 隠れはじめた童心をくすぐるような、細かい文章運びの気遣いが、とても気持ちいい。なるほど漫画化していたのを見てみたくなった。

 この二作は、いかにも初期乙一らしさが溢れていたが、この後続く「BLUE」と「平面いぬ。」は何とも驚かされる。
 どちらも寓話的というか、非現実的であるのに、きっちりと現実の問題を意識して書いている。ただ、面白いお話を書くだけの作家、と認識していたのを、改めなくてはいけなくなった。

 不思議な触感の生地で作られた人形達のお話「BLUE」は、余り生地で作られた人形の疎外感(いじめ)や家庭不和を描いているし、軽い気持ちで彫った犬の入れ墨が突然動き出す「平面いぬ。」は家族を描いている(個人的には平面いぬが一番好きだった)。
 どちらも嫌みたらしくなく、説教臭くもなく、こういうお話が一〇代に多く読まれていると思うと、ちょっと安心する。

 なにか新たな乙一の一面を発見した気分。

 けれど、もしかしたら私が一〇代の頃読んでいた他の乙一の本にも、こういった一面が現れていたのに、私が理解していなかっただけかもしれない。

 また、新たに乙一を読み直さなければ、と楽しくなる。

誰か ----Somebody

2004年11月24日 読書
ISBN:4408534498 単行本 宮部 みゆき 実業之日本社 2003/11/13 ¥1,600

 今多コンツェルン会長のお抱え運転手が、自転車に轢かれ亡くなった。
 会長の娘婿である杉村三郎はある日、運転手の娘達から父親の自伝執筆の編集を手伝って欲しいと頼まれる。

 宮部みゆきさんが、本を出せば売れる作家さんである事が、私は凄く嬉しい。
 読むたびにどこか浄化されて、しかし人間ってものの複雑さを見る気がする。人間が書けて居るとは、これだな。

 良い人にあてられ、悪い人を嫌悪する。
 どこに基準があるか知らないけれど、この読後感は独特。

 今回の「誰か」は、比較的に「悪」が少ない。
 あえてそう書いているように見える。だからこそ、あの終わり方が生きてくるのだなあ、と思う。
 素晴らしい。が、手を叩いて「面白い!」と絶賛するわけでなく、何というのか老後の楽しみ的な面白さである。
 渋い。シブチ。

 三郎さんの奥さんを、僕にください。

-追記-

 しかし、本当に自転車のマナーが悪いわな。
 ベルをならしまくる老人も、走り抜ける若者も、どうにかならないもんか。
 だいたい、ベルが嫌いだ。何であんなに攻撃的だ?

綺譚集

2004年11月19日 読書
ISBN:4087747034 単行本 津原 泰水 集英社 2004/08 ¥1,785

 エロイ、グロイ、しゃばい。
 三拍子そろい私の胸を衝いてくる。文章のマジック、プロットの突飛さ。魔法だ。幻想的だ。
 文句の付け所が無い。幻想小説、またはエログロというジャンルで、好き嫌いは分かれるところだろうが、好きな人にはたまらぬ一品であろう。

 なので、他にあんまり言う事が見つからない。
 そんな、今は午前三時。

-追記-

 このページの配色に、妙に合う。
ISBN:4163233806 単行本 小笠原 慧 文藝春秋 2004/10/27 ¥1,600

  死者の脳内の記憶をトレースする技術が確立し、殺人事件の捜査に飛躍的な進歩があらわれたが、それをあざ笑うかのように首狩り殺人が相次ぐ。
 新人捜査官は、人工知能ドクター・キシモトの助けを借りてプロファイルを元に捜査を行う。

 著者の経歴を見ると鬼のよう。
 東京大学文学部哲学科中退、京都大学医学部卒。医学博士。
 そして、現役精神科医。ちらりと見せればひれ伏してしまいそうである。
 まず、それでもエンターテイメントを書き続けようとする姿勢に乾杯。

 二転三転する物語に、謎の提示の豊富なこと豊富なこと。若干ご都合主義であるかな、とは思えるが、しかしそんな事を言っていたら一〇〇〇枚は必要になりそうな過多気味な伏線の絡まり。
 一つ一つの伏線の質はどうあれ、これだけ張り巡らして読者を引き込むのだから、単純に凄い。

 私は、この人のように、風景描写や、人物の容姿の描写に一切手をかけない冷めたような文章が好き。
 しかし、登場人物の顔も、風景の細かい描写も、頭の中でいつのまにか想像させるような文章が、望ましいはず。
 今回も頭にぱっと浮かび上がる描写が多くあった。AIであるキシモトシも、私の中で洋ゲーの博士みたいな顔をしている。
 ただ、主人公だけがどうしても頭に思い浮かばなかった。たぶん、伏線を消化したり、物語を進行させるだけのコマとして居るように思えたからだと思う。そこら辺がちょっと残念。人間味はとてもあるのだけれど。

 ネタばれになってしまう評価すべき点が多くて、むずがゆいです。
 それなりにお薦め。

gift

2004年11月2日 読書
ISBN:4087747212 単行本 古川 日出男 集英社 2004/10 ¥1,365

 神様にふれるたくさんの方法。
 19の掌編。

 帯の、翻訳者柴田元幸氏の文句が良い。
「凄い書き手。こんな作家が英語圏にいたら即、訳したい。」
 しかし、古川氏の「溜め」や、接続詞の妙をどうやって英語で表現できるのか、ちょっと謎だ。日本人に生まれて良かったと思う。
 でなければこの本を楽しめなかった、と思うだけでも。

 一編一編は一〇ページあるかないかの、ショートショート並の長さ。しかも文字が大きく印字してあるので、実際はもっと少ないのだろう。
 けれど、短編用の雰囲気ではなく、きちんと一つがその物語の世界観を持っているから凄い。
「台場国、建つ」なんか、長編のプロローグのようだけれど、それで完結してしまっているのが恐ろしい、とさえ思う。

 読後感は、不思議とアルバムを一枚聴き終えたような気分になった。
 文章のテンポ、一話の長さ。読み返すたびに、この読後感を狙って計算しているんじゃないか、とさえ思えてくる。

 長編に疲れたら、本を読むのに少し疲れたら、考えるのに疲れたら。
 そんな時に手に取りたい本。オススメ。
ISBN:4061850458 文庫 東野 圭吾 講談社 1992/02 ¥580

 十字屋敷での悲劇を、ピエロは見ていた。

 久しぶりの東野さん。未読だった物を消化。
 もう10年以上も前の作品だと思うと、感慨深い。

 主軸となるのはオーディオルームで殺された、車いすの少女の父親の事件。そしてなぜか同じ場所で殺されていた父親の秘書。
 不可解な状況。そして犯人が自白を始めるが、その曖昧な証言で、より事件は混迷を深める。

 この事件の書き方がうまいうまい。
 東野さんの言葉を紡ぐテンポは、まるで和食のようだ。おいしくて、それでいてしつこくない。
 どんどん引っ張られて「それでそれで?」と問いかけていきたくなる。謎の小出し、謎の小さな解決。それを否定、それを肯定、読者を欺く描写(しかしそれはトリックではない)。はてはどんでん返し。この流れ。
 素晴らしい。

 東野圭吾さんが読者を非難する理由が、少し頷ける作品でもあった。
 例えばこの作品、読者が「推理」をしなければ、重要な語り部である「ピエロ」の存在意義が薄らいでしまうのだ。
 東野さんはこの作品を読者に「推理」して欲しい事を前提に書いている気がする。

 それが煮詰まって「私が彼を殺した」といった解決編を書かないお話へと繋がっていくのだろうけど。

 で、四時だ。
ISBN:4093875146 単行本 藤谷 治 小学館 2004/07 ¥1,365

 アンダンテモッツァレラチーズにて私の心を射抜いた、藤谷治さんの二作目。
 本名が一切語られない「おがたQ」の一生(?)を描く。

 読んでいたら五時です。
 それくらい読みやすかった。
 登場人物も魅力的、とは少し違うけれど、癖があり愛着が出る。
 問題の「おがたQ」自体も、その名前とは裏腹に人間味あるふうに描かれているし、無難である。

 無難である。

 で、無難であるがゆえに、後味の悪さが少々際立っちゃって、なんとも複雑な読後感。
 この物語が、この形である理由が、いまいちつかめない。
 嫌な読後感に意味が無いほど、居心地の悪い物は無いなあ。

 それでも、何か引きつける力はあって、読み通せました。
 次回作が楽しみだ。

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