いつも休日一緒に遊ぶ人が流行病でダウンのため、久々に一人で街に繰り出してみる。
 古着屋などに行ってみようと、駅周辺をうろうろしていると、いつの間にかパルコ。
 あれっと思いつつ何故か楽器屋。
 あれー? っと思いつつ、なぜかテレキャスかジャガー、どちらを買おうか悩んでいる客に変貌する。
 単純に試奏がしてみたかった。

 すると、店員の兄ちゃんがノリの良い事良い事。
「はっきり言って、四、五万円だしてフェンダーのテレキャスは買うもんじゃないですね」
 いきなり一刀両断。ジャガーは「この楽器じゃないと出せない音ですからねえ。じゃきーんと、こう、じゃきーん! っと」
 少々引きつつ、兄ちゃんはフェンダーUSAやヒストリーのテレキャスを見せてくれる。どちらも二〇万円台。

「でね、こっちの一九万のテレキャスは、はっきり言って駄目」
 なにやら、ネックとボディとの隙間があると、鳴りがひどく悪くなるらしい。フェンダーは大量生産の体制があるので、どうしてもその部分で粗悪品が多くなるそうだ。じゃあ売れないじゃないか、と言うと兄ちゃんは「フェンダーじゃなきゃ駄目って人には、独特の音って言い張れば良いんですよ」との事。なるほど。拘りと無知とは紙一重かも知れない、と我が身を振り返り震える。
「でも、こっちの二〇万のフェンダーのテレキャスは、木自体が良いから鳴りは良いですよ」
 と、勧めてくれる。で、ついでとばかりに一八万のヒストリーのテレキャスも降ろしてくれる。

 俺はと言えば、買えるわけ無いじゃん、と思いながらもワクワク。
 ついでに、ずっと思っていた疑問を口に出す。
「あの、エレキギターってピックアップが音を拾うんですよね? だったら、本体の鳴りとか、そう言うのってそんな大きな違いになるんですかね?」
 店員の兄ちゃんはにやりと笑う。話によるとこの人、ずっとギターに関して学校に通い勉強していたらしい。電装関係はさっぱりらしいが。

「たとえ話をしましょう」

 秘密、をするみたいに口元に人差し指を持ってくる。
 そして、ほくそ笑み――

「和田アキ子(ボディ)が百円のマイク(ピックアップ)で歌を唄うとします。
 一方では、松浦亜弥(ボディ)が百万円のマイク(ピックアップ)で歌を唄います。
 どちらが凄いと思いますか?」

 なるほど!!

 たとえがなぜ和田アキ子なのかは良く分からないけど、良く分かる話である。どれだけ松浦亜弥が高性能なマイクで唄おうとどうしようもないわけだ。
 それに、ピックアップなんてすぐに付け替えの効く物であるし。

 で、実際にギターをアンプにつないで音を出してみる。
 まず、一九万円の「烙印」をおされたギターから。

 ジャビーン。

 兄ちゃんは、なぜか森広隆のエレンディラのリフを弾く。ちょっと盛り上がる。

 俺も弾かせて貰う。

 ぽろろん。

 なるほど。こんな感じか。やっぱフェンダーは握りやすいなあ。

 で、次は一八万円のヒストリーのギター。
 兄ちゃん曰く「笑い出すぐらい違いがある」らしい。まさか、と思いつつ、兄ちゃんが弾くのを聞く。やっぱり、エレンディラ。

 ぎゃびーーーん!

 あはっはっはっは。本当に笑ってしまうぐらい違う。と言うか笑った。
 ピックアップ云々ではなくて、もう単純に音の抜け(文章以外で初めて実感した)からサスティーンまで明らかに違う。兄ちゃんはノリノリでリフを繰り返しまくる。笑いが止まらない。

 実際に弾かせて貰うと、ボディーが震えて、お腹にずばんずばん振動が来る。思わず「うわぁ」と声に出してしまった。
 これは凄い。

 二〇万円のテレキャスのほうもほうで、味のある渋い音であった。いわゆる「枯れた音」ってのはああ言うのを言うのかも知れない。
 でも、どちらかと言えば一八万円のヒストリーが好み。素直な子だった。
 ローン計算をしてもらう。月々五千円か……悩むが、やはり即断は出来ない。

 真剣にローンを考えつつ、しかし早まらないで、いつか金が出来たら、出来るめどが立ったら買ってやろうと誓うのだった。

 指が動く限りの趣味にしよう。

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