平面いぬ。

2004年11月26日 読書
ISBN:4087475905 文庫 乙一 集英社 2003/06 ¥620

 最近、津原泰水さんや古川日出男さんなど「文章で魅せる」作家さんの本を読んできたため、乙一かあ、とずっとほっぽっておいたこの本。

 いや、原因はもう一つありそう。
 これを読む事で乙一の著書全てを読む事になってしまう、つまりもう読めなくなる、というのが嫌だったのかも知れない。
 ファイナルファンタジー4、5と同じ理由でラストダンジョンにてプレイを中断した人間だ。
 しかし、読む。他に読む物が無かった、といえば聞こえは悪いけれど。

 単行本では表題作だった石ノ目は、いかにも乙一らしいお話。
 現実とファンタジーとホラーと童話が混濁したような雰囲気。
 しかし、あまり情景が立ち上がってこず、いまいちであった。

「はじめ」は、ジャンプで漫画化もされたお話であると記憶している。
 男の子二人が作り出した妄想の女の子「はじめ」が、いつしか二人の前に実態として現れる(もちろん二人にしか見えない)。
 このお話を読んで、彼が伊集院光のラジオリスナーで有る事を思い出した。
 伊集院氏がよく言う脳内彼女が、果たして実体化したら、というのを遠回しに書いたような切ないお話。
 隠れはじめた童心をくすぐるような、細かい文章運びの気遣いが、とても気持ちいい。なるほど漫画化していたのを見てみたくなった。

 この二作は、いかにも初期乙一らしさが溢れていたが、この後続く「BLUE」と「平面いぬ。」は何とも驚かされる。
 どちらも寓話的というか、非現実的であるのに、きっちりと現実の問題を意識して書いている。ただ、面白いお話を書くだけの作家、と認識していたのを、改めなくてはいけなくなった。

 不思議な触感の生地で作られた人形達のお話「BLUE」は、余り生地で作られた人形の疎外感(いじめ)や家庭不和を描いているし、軽い気持ちで彫った犬の入れ墨が突然動き出す「平面いぬ。」は家族を描いている(個人的には平面いぬが一番好きだった)。
 どちらも嫌みたらしくなく、説教臭くもなく、こういうお話が一〇代に多く読まれていると思うと、ちょっと安心する。

 なにか新たな乙一の一面を発見した気分。

 けれど、もしかしたら私が一〇代の頃読んでいた他の乙一の本にも、こういった一面が現れていたのに、私が理解していなかっただけかもしれない。

 また、新たに乙一を読み直さなければ、と楽しくなる。

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