ISBN:4163233806 単行本 小笠原 慧 文藝春秋 2004/10/27 ¥1,600

  死者の脳内の記憶をトレースする技術が確立し、殺人事件の捜査に飛躍的な進歩があらわれたが、それをあざ笑うかのように首狩り殺人が相次ぐ。
 新人捜査官は、人工知能ドクター・キシモトの助けを借りてプロファイルを元に捜査を行う。

 著者の経歴を見ると鬼のよう。
 東京大学文学部哲学科中退、京都大学医学部卒。医学博士。
 そして、現役精神科医。ちらりと見せればひれ伏してしまいそうである。
 まず、それでもエンターテイメントを書き続けようとする姿勢に乾杯。

 二転三転する物語に、謎の提示の豊富なこと豊富なこと。若干ご都合主義であるかな、とは思えるが、しかしそんな事を言っていたら一〇〇〇枚は必要になりそうな過多気味な伏線の絡まり。
 一つ一つの伏線の質はどうあれ、これだけ張り巡らして読者を引き込むのだから、単純に凄い。

 私は、この人のように、風景描写や、人物の容姿の描写に一切手をかけない冷めたような文章が好き。
 しかし、登場人物の顔も、風景の細かい描写も、頭の中でいつのまにか想像させるような文章が、望ましいはず。
 今回も頭にぱっと浮かび上がる描写が多くあった。AIであるキシモトシも、私の中で洋ゲーの博士みたいな顔をしている。
 ただ、主人公だけがどうしても頭に思い浮かばなかった。たぶん、伏線を消化したり、物語を進行させるだけのコマとして居るように思えたからだと思う。そこら辺がちょっと残念。人間味はとてもあるのだけれど。

 ネタばれになってしまう評価すべき点が多くて、むずがゆいです。
 それなりにお薦め。

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