暗黒童話

2004年5月18日 読書
ISBN:4087020142 新書 乙一 集英社 2001/09 ¥950

 ある事故で片方の眼球を一つ失った少女は、事故のショックで記憶も無くしてしまいました。
 ぎくしゃくとする親子関係。記憶を失った少女を、我が子ではない、と嘆く母。
 少女は「眼球移植」を受け、視力を回復します。しかし、記憶は戻りません。
 時折ふと、移植した眼球に現れる光景がありました。前の持ち主の記憶だろうその光景を頼りに、少女は家を出ます。

 乙一さん初の長編にして、傑作。
 集英社の新書ということで、置いていないところが多いですが、文庫化されますので、そちらをどうぞ。

 優しい文体でどこまでもグロテスクな風景描写は、最後まで読み解いた時、どこかもの悲しく感じます。
 著者曰く――「切なさの達人」と呼ばれた自分を求めて買ってくれた人には申し訳ない作品――との事だけれど、角川スニーカーで出ていた色々な著作を上回る切なさが私の心には残りました。

 眼球の記憶という謎も十分魅力的だけれど、少女の葛藤のほうも面白く感じました。なるほど記憶喪失とはこんな感じなのかな、と。
 記憶喪失とは、一個人格の喪失であり、そして、記憶喪失の回復とは、やはり一個の人格が消える事を意味するのかも知れない。
 読者としては、記憶を喪失してからの少女の視点を通じて、物語を見るので、記憶の回復は、イコール彼女の喪失であり、感情移入をすればするほど、ジレンマを覚えます。
 デビュー作で「死体の一人称」という離れ業をやってのけた乙一さんらしいといえば、らしいですね。

 グロテスクな描写がきついといえばきついので(個人的に、物語として必要だと感じましたが)そういうのが絶対に苦手な方にはお薦め出来ません。それ以外の方には、文句なくお薦めです。

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