友情・愛と死

2004年5月15日 読書
ISBN:4041004047 文庫 武者小路 実篤 角川書店 1966/11 ¥399

 まさに私が読み終わった二つの話。

 偉大なる作家を志す青年の、恋と友情の話が「友情」
 この「友情」というのがまた、意味深く恐ろしくも美しい感情なのだ、と思わせる。
 序盤に伏線を張って、最後にそれを解き明かしていく様は、ミステリにも通ずる気持ちよさがある。
 私がどんな人物か、と問われれば、武者小路実篤の書く主人公のような人間だ、と言いたくなるくらい、感情移入が出来て、面白かった。
 にしても、ぼろくそに言われる主人公が可哀想だ……

 そして「愛と死」は、タイトルが示すとおり、愛と死をテーマに扱っていて、まさか泣くとは思わなかった。
 友人(この友人と主人公の関係は「友情」に通ずるものがある)の妹に恋をし、相思相愛になった主人公は、友人から進められて巴里へ旅立つ事になった。
 巴里へは半年間滞在する。無事、帰ってきたら結婚しようと友人の妹と約束を交わし旅立った主人公。毎日のように手紙を出し合う二人。
 これで死がテーマと言えばわかってしまうでしょう。
 最後、主人公が彼女の部屋を覗く場面でほろりと来てしまいます。というか、今も思い出して来てます。

 もう一つ「愛と死」で興味深かったのは、主人公が巴里から帰ってきて言った言葉。
「巴里にいったところで、人間が居るだけであった」
 そして巴里で僕は変わらなかった、と彼は言った。芸術はすばらしかったが、日本にも誇る人物は多くいて、という描写があったので、おそらく「人間が居るだけであった」というのは本当なのだと思う。
 けれど、彼は成長したのだ、と言った。旅行中の手紙のやりとりで育まれた「愛」と、帰路の途中で知った「死」によって。
 凄い衝撃を受けた。
 平易なテーマだなあ、と思って読んでいたのに、一つ人間の大事な部分を知った気がした。
 最近、成長という言葉が、どこか「自動詞」のように扱われているのに、憤慨する。
 何もしないで、ただ「何か」を待つ人間を私は好きになれない。
 かならず物事には「過程」があり「結果」がある。わかりきった事なのに、いまさら強く認識できた。

 この「強く認識」出来る事が、創作物のすばらしさだと思う。

 ああ、面白い。面白い。面白い!

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