ZOO

2004年5月2日 読書
ISBN:4087745341 単行本 乙一 集英社 2003/06 ¥1,575

 乙一さんの短編集。
 16歳だったか17歳でジャンプノベルスにてデビュー後、我孫子武丸氏の絶賛を浴び、角川スニーカー文庫で「せつなさの達人」と呼ばれる名短編集をいくつも送り出す。
 その後初のハードカバー「GOTH」で本格ミステリ大賞を受賞し、若い異能としてマスコミに多く取り上げられる。

 彼を天才と呼ぶ人は少なくないけれど、個人的に乙一さんは「とてもセンスのいい人」だと思うんです。
 幼少から吸収してきた様々なものを、努力で創作に押し上げている。
 そんなイメージ。

 このZOOは、比較的初期の作品から後期の作品まで揃ってる、統一性のないおかしな短編集です。
 どれもこれもそれなりに面白いのですが、中でも推したいのが表題作でもある「ZOO」と「陽だまりの詩」の二篇。
 この二篇の説明をすれば、この短編集がどれだけ変かわかって頂けるとも思います。

「ZOO」は、ある青年の元に毎日、恋人が徐々に腐乱していく写真が送られてくるという、前記した「せつなさの達人」とはかけ離れた粗筋を持った物語です。
 実はその写真は、青年自身が殺してしまった恋人を、青年自身が毎日写真を撮って自身に送りつけているわけですが、とにかく怖い。
 書き方が突き放しているというか、一人称なのに、なぜか客観的すぎて、ぞっとする。
 乙一さん得意の「最後にあっと驚く」ようなオチは無いだけに、あまり人気のない話だけれど、私は一番好きです、このお話。

「陽だまり詩」は、人類が滅亡している世界で、のんびりと暮らす一人の老人と、老人の作ったロボットのお話。
 ロボットが徐々に感情を持っていく様子が、急ぎ足でもなく、微妙な時間の流れで丁寧に書かれていて、最後は涙が溢れてしまいます。
 細かく張り巡らされた伏線もお見事。

 と、言うように、こういった両極端な話が平然と同じ本に収められて、なおかつそれがアンソロジーではなく「乙一」という個人であるから、恐ろしい。
 そして、とんでもなく面白い。

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